月ハ映(うつ)リキ
水ヲ染メデ
柳宗悦『心偈』第40
『心経』に「不生不滅、不垢不浄、不増不減」という言葉がでてくる。仏教が示す一大真理だといえる。西洋では不滅を説くが、不生はめったに説かぬ。
縁があると、月は水にその姿を映す。だがどんなに明らかに映ったとて、水は染まらぬ。また縁で雲に覆われると、何も残らぬ。水に宿る月は映像で、ものを生じもせず、また滅しもせぬ。映ったとて、水にものは加わらず、去ったとて、水からものは減ぜぬ。水に映っても、水は汚れもせず、また浄くもならぬ。
ここを「空(くう)」と仏者はいうのである。映るものは縁に従う。縁であるから、映る姿に自性(じしょう)はない。経はこれを「無我」という。これが分かると、凡ての二元は、そのままで、吾々を縛る力を失う。縛られずば「不二」に生きる。
仏者はよくこの真理を語るのに鏡の譬(たと)えを用いた。不二を見つめたいためである。「色即是空、空即是色」という言葉も、ここを見てのことである。
引用:
南無阿弥陀仏―付・心偈 (岩波文庫)
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