Case 1
Joshu's "Mu"
一 趙州狗子
A monk asked Joshu,
"Has a dog the Buddha Nature?"
趙州和尚、因僧問、狗子還有佛性也無。
趙州和尚、因(ちな)みに僧問う、「狗子、還(は)た仏性(ぶっしょう)有りや」。
或る僧が趙州和尚に向かって、「狗(犬)にも仏性がありますか」と問うた。
Joshu answered, "Mu".
州云、無。
州云く、「無」。
趙州は「無い」と答えられた。
In order to master Zen, you must pass the barrier of the patriarchs.
無門曰、參禪須透祖師關、
無門曰く、「参禅は須(すべから)く祖師の関を透(とお)るべし。
無門は言う、「禅に参じようと思うなら、何としても禅を伝えた祖師たちが設けた関門を透過しなければなるまい。
To attain this subtle realization, you must completely cut off the way of thinking.
妙悟要窮心路絶。
妙悟は心路を窮めて絶せんことを要す。
素晴らしい悟りは一度徹底的に意識を無くすることが必要である。
If you do not pass the barrier, and do not cut off the way of thinking,
then you will be like a ghost clinging to the bushes and weeds.
祖關不透心路不絶、盡是依草附木精靈。
祖関透らず心路絶せずんば、尽(ことごと)く是れ依草附木(えそうふぼく)の精霊ならん。
祖師の関門も透らず、意識も絶滅できないようなのは、すべて草木に憑りつく精霊のようなものだ。
Now, I want to ask you,
what is the barrier of the pariarchs?
且道、如何是祖師關。
且(しば)らく道(い)え、如何が是れ祖師の関。
さて、それでは祖師の関門というものは一体どのようなものであるか。
Why, it is this single word "Mu."
That is the front gate to Zen.
只者一箇無字、乃宗門一關也。
乃(すなわ)ち宗門の一関なり。
ここに提示された一箇の「無」の字こそ、まさに宗門に於いて最も大切な関門の一つにほかならない。
Therefore it is called the "Mumonkan of Zen."
遂目之曰禪宗無門關。
遂に之れを目(なず)けて禅宗無門関と曰(い)う。
そこでズバリこれを禅宗無門関と名付けるのである。
If you pass through it, you will not only see Joshu face to face,
but you will also go hand in hand with the successive patriarchs, entangling your eyebrows with theirs, seeing with the same eyes, hearing with the same ears.
透得過者、非但親見趙州、便可與歴代祖師把手共行、眉毛厮結同一眼見、同一耳聞。
透得(とうとく)過(か)する者は、但(た)だ親しく趙州に見(まみ)えるのみに非(あら)ず、便(すなわ)ち歴代の祖師と手を把(と)って共に行き、眉毛(びもう)厮(あ)い結んで同一眼(どういつげん)に見、同一耳(どういつに)に聞く可(べ)し。
この関門をくぐり抜けることができたならば、趙州和尚にお目にかかれるばかりでなく、同時に歴代の祖師たちとも手をつないでいくことができ、祖師たちと眉毛どうしを結び合わせて、祖師と同じ眼で見たり同じ耳で聞いたりすることができるのだ。
Isn't that a delightful prospect?
豈不慶快。
豈(あ)に慶快(けいかい)ならざらんや。
なんと痛快なことではないか。
Wouldn't you like to pass this barrier?
莫有要透關底麼。
透関を要する底(てい)有ること莫(な)しや。
どうしてこのような関門を透過しないでおれようか。
Arouse your entire body with its three hundred and sixty bones and joints and its eighty-four thousand pores of the skin; summon up a spirit of great doubt and concentrate on this word "Mu."
將三百六十骨節、八萬四千毫竅、通身起箇疑團參箇無字。
三百六十の骨節、八萬四千の毫竅を将(も)って、通身に箇の疑団を起して箇の無の字に参ぜよ。
三百六十の骨節と八万四千の毛穴を総動員して、からだ全体を疑いの塊りにして、この無の一字に参ぜよ。
Carry it continuously day and night. Do not form a nihilistic conception of vacancy, or a relative conception of "has" or "has not."
晝夜提撕、莫作虚無會、莫作有無會。
昼夜提撕(ていぜい)して、虚無(きょむ)の会(え)を作(な)すこと莫(なか)れ、有無(うむ)の会(え)を作(な)すこと莫(なか)れ。
昼も夜も間断なくこの問題をひっ提げなければならない。しかも、決して虚無だとか有無だとかいうようなことと理解してはならない。
It will be just as if you swallow a red-hot iron ball, which you cannot spit out even if you try.
如呑了箇熱鐵丸相似、吐又吐不出。
箇の熱鐵丸(ねつてつがん)を呑了(どんりょう)するが如くに相い似て、吐けども又た吐き出さず。
あたかも一箇の真っ赤に燃える鉄の塊りを呑んだようなもので、吐き出そうとしても吐き出せない。
All the illusory ideas and delusive thoughts accumulated up to the present will be exterminated, and when the time comes, internal and external will be spontaneously united. You will know this, but for yourself only, like a dumb man who has had a dream.
蕩盡從 前惡知惡覚、久久純熟自然内外打成—片、如啞子得夢、只許自知。
従前の悪知悪覚を蕩尽(とうじん)して、久々に純熟して自然(じねん)に内外(ないげ)打成(だじょう)一片ならば、啞子(あし)の夢を得るが如く、只(た)だ自知することを許す。
Then all of a sudden an explosive conversion will occur, and you will astonish the heavens and shake the earth.
驀然打發、驚天動地。
驀然(まくねん)として打発せば、天を驚かし地を動ぜん。
ひとたびそういう状態が驀然(まくねん)として打ち破られると、驚天動地のハタラキが現れる。
It will be as if you snatch away the great sword of the valiant general Kan'u and hold it in your hand. When you meet the Buddha, you kill him; when you meet the patriarchs, you kill them.
如奪得關將軍大刀入手、逢佛殺佛、逢祖殺祖、
関将軍の大刀を奪い得て手に入るるが如く、仏(ぶつ)に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺し、
まるで関羽の大刀を奪い取ったようなもので、仏に逢えば仏を殺し、祖師に逢えば祖師を殺すという勢い。
On the brink of life and death, you command perfect freedom; among the sixfold worlds and four modes of existence, you enjoy a merry and playful samadhi.
於生死岸頭得大自在、向六道四生中遊戲三昧。
生死(しょうじ)岸頭(がんとう)に於いて大自在を得、六道(ろくどう)四生(ししょう)の中に向かって遊戯(ゆげ)三昧(ざんまい)ならん。
この生死の世界の真っ只中で大自在を得、迷いと苦しみの中で遊戯三昧の毎日ということになるのだ。
Now, I want to ask you again, "How will you carry it out?"
且作麼生提撕。
且(しば)らく作麼生(そもさん)か提撕(ていぜい)せん。
さて諸君はどのようにしてこの無の字をひっ提げるか。
Employ every ounce of your energy to work on this "Mu."
盡平生氣力擧箇無字、
平生(へいぜい)の気力を尽くして箇の無の字を挙(こ)せよ。
ともあれ持てる力を総動員して、この無の字と取り組んでみよ。
If you hold on without interruption, behold: a single spark, and the holy candle is lit!
若不間斷、好似法燭一點便著。
若(も)し間断(けんだん)せずんば、好(はなは)だ法燭の一点すれば便ち著(つ)くに似ん。
もし絶え間なく続けるならば、あるとき、小さな種火を近づけただけで仏法のともしびが一時にパッと燃えあがることだろう。
Mumon's Verse
頌曰
頌(じゅ)に曰く
頌(うた)って言う、
The dog, the Buddha Nature,
狗子佛性
狗子仏性
狗に仏性有るかどうかと、
The pronouncement, perfect and final.
全提正令
全提(ぜんてい)正令(しょうれい)
丸出しされた仏陀の命令。
Before you say it has or has not,
纔渉有無
纔(わずか)に有無(うむ)に渉(わた)れば
有無の話としたとたん、
You are a dead man on the spot.
喪身失命
喪身(そうしん)失命(しつみょう)せん。
忽ち命を奪われる。
語彙(訳註:西村恵信)
Buddha Nature
仏性
仏としての本性、仏となる可能性。梵語buddhataの訳。
the barrier of patriarchs
祖師の関門
初祖・達磨以来、禅宗を伝えた祖師たちが、学人を禅の玄旨に導くために設けた関門。
subtle realization
妙悟
すばらしい悟り。
the way of thinking
心路。意識。
a ghost clinging to the bushes and weeds
依草附木(えそうふぼく)の精霊
人の死後、中有(ちゅうゆう)の状態で浮遊する霊魂が、次の生縁(しょうえん)を求めて草木に憑(よ)りつくこと。他に依存して主体性を持たぬものの喩え。
conception of vacancy
虚無
a red-hot iron ball
熱鉄丸(ねつてつがん)
真っ赤に燃える鉄の塊り。
the illusory ideas and delusive thoughts
悪知悪覚。
a dumb man
唖(おし)の人
言葉が話せない人。
the brink of life and death
生死(しょうじ)岸頭(がんとう)
迷いの苦海の岸辺。生死の世界の真っ只中。
the sixfold worlds
六道(ろくどう)
地獄(hells)・餓鬼(hungry ghosts)・畜生(animals)・修羅(asuras, malevolent spirits)・人間(human existence)・天上(Devas, Gods)の6つの世界。衆生が業によって生死流転を繰り返す迷いの世界(六趣とも)。
four modes of existence
四生(ししょう)
胎生(live-born)・卵生(egg-born)・湿生(born from moisture)・化生(born through metamorphosis)の4つ。生まれ方による動物の仏教的分類。
a merry and playful samadhi
遊戯(ゆげ)三昧(ざんまい)
has or has not
有無(うむ)
英語:Two Zen Classics: The Gateless Gate and The Blue Cliff Records
日本語:無門関 (岩波文庫)
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