話:横田南嶺
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「桃栗3年、柿8年」
という言葉はよく知られています。
では、この後に続く言葉をご存じでしょうか?
いろいろな説があるようですが、私が得度させていただいた白山道場(東京都文京区)の小池心叟(しんそう)老師は、よく
「桃栗3年、柿8年
柚子(ゆず)は9年で実を結ぶ。
梅は酸(す)いとて13年
蜜柑(みかん)、大馬鹿20年」
と、そのように言っておられました。
桃や栗が実るには植えてから3年がかかる。柿は8年ですから、もっと時間がかかるのでありましょう。柚子は9年、梅は13年、そして甘く美味しい蜜柑ができるまでには20年はかかる。
ここで大切なのは、この蜜柑と同じように時間がかかって初めて実る大馬鹿とは何かという問題です。小池老師は修行を始めた頃、私に言われたものです。
「大馬鹿になるんだ」と。
「禅の修行は馬鹿でも、小馬鹿ではいけない。大馬鹿になるんだ。その大馬鹿になるには20は辛抱しないとなれないぞ」
小池老師と出会う前まで、私は学校で少しでも良い成績をとって賢くなるように、と教育されてまいりましたので、ある時、思い切って小池老師に
「馬鹿になるのが禅の修行であれば、最初から勉強しなくてもよいのでしょうか?」
と尋ねてみました。すると、
「最初から勉強しないのは単なる馬鹿で、一生懸命勉強した末に大馬鹿になる」
と。それ以上は説明されなかったのです。
大馬鹿になるとはどういうことなのか?
以来、このことは私の心に引っかかって今日に至ったように思います。
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引用:致知2016年3月号
横田南嶺「願いに生きた禅僧たちの知恵」
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