2020年10月25日日曜日

「知ってことさらに犯す」趙州禅師

 

話:秋月龍珉



崔郎中という高官がいた。


一日趙州禅師に尋ねて言った、

「あなたさまのような善知識でも、地獄へ堕ちるようなことがありましょうか」。


「それはある。自分はまっさきに入る」

と、趙州は答えた。


「どうして、そういうことがあるのですか」。


趙州は言下に言う、

「わしが堕ちなんだら、こうしてあんたにお目にかかるわけにもいかぬではないか」



また他のとき、他の僧が尋ねた、

「犬にも仏性がありますか」。


すると、趙州禅師は言下に、

「有る!」と言われた。


僧は突っ込んだ、

「すでに仏性があるという以上、どうしてこんな汚い獣の皮袋(肉体)の中に入って来たんですか」。


その時である、趙州禅師の眼がきびしく光った。

「それは、彼が知っていて、わざとそうしているのだ」。



「知而犯(ちにほん)」


「他(かれ)が知って故(ことさ)らに犯すが為なり」

という趙州の答えの凄まじさは、千年を隔てて文字に対してさえ身震いを感じる。




2020年10月24日土曜日

【総ルビ原文訓読】碧巌録 第15則

 

第一五則

「雲門倒一說」

雲門(うんもん)禅師(ぜんじ)(とう)一説(いっせつ)

 

【垂示】

垂示云、殺人刀、活人劍、

乃上古之風規、是今時之樞要。

且道、如今那箇是、殺人刀活人劍。

試舉看。

 

垂示(すいじ)(いわ)く、殺人(さつじん)(とう)活人(かつにん)(けん)

(すなわ)上古(じょうこ)風規(ふうき)にして、()今時(こんじ)枢要(すうよう)なり。

(しばら)()え、如今(いま)那箇(いずれ)()殺人(さつじん)(とう)活人(かつにん)(けん)

(こころ)みに()()ん。

 

【本則】

舉僧問雲門、不是目前機、

亦非目前事時如何。

門云、倒一說。

 

()す。(そう)雲門(うんもん)()う、

()目前(もくぜん)()にあらず、

()目前(もくぜん)()にも(あら)ざる(とき)如何(いかん)」。

(もん)(いわ)く、「(とう)一説(いっせつ)」。

 

【頌】

倒一說、分一節。

同死同生為君訣。

八萬四千非鳳毛。

三十三人入虎穴。

別別、擾擾怱怱水裏月。

 

(とう)一説(いっせつ)(ぶん)一節(いっせつ)

同死(どうし)同生(どうしょう)(きみ)(ため)(けっ)す。

八万(はちまん)四千(しせん)鳳毛(ほうもう)(あら)ず。

三十三人(さんじゅうさんにん)虎穴(こけつ)()る。

(かくべつ)なり、(かくべつ)なり、

擾擾(じょうじょう)怱怱(そうそう)たり水裏(すいり)(つき)


【総ルビ原文訓読】碧巌録 第14則

 

第一四則

「雲門對一說」

雲門(うんもん)禅師(ぜんじ)対一説(たいいっせつ)

 

【本則】

舉僧問雲門、如何是一代時教。

雲門云、對一說。

 

()す。(そう)雲門(うんもん)()う、「如何(いか)なるか()一代(いちだい)時教(じきょう)」。

雲門(うんもん)(いわ)く、「対一説(たいいっせつ)」。

 

【頌】

對一說、太孤絕。

無孔鐵鎚重下楔。

閻浮樹下笑呵呵、昨夜驪龍拗角折。

別別、韻陽老人得一橛

 

対一説(たいいっせつ)(はなは)孤絶(こぜつ)無孔(むく)鉄槌(てっつい)(かさ)ねて(くさび)(くだ)す。閻浮樹(えんぶじゅ)()(わら)うこと呵呵(かか)昨夜(さくや)驪龍(りりょう)(つの)()()らる。(かくべつ)なり、(かくべつ)なり、韻陽(じょうよう)老人(ろうじん)(いっけつ)()たり。


2020年10月23日金曜日

【総ルビ原文訓読】碧巌録 第13則

 

第一三則

「巴陵銀椀裏」

銀椀裏(ぎんわんり)(ゆき)()

 

【垂示】

垂示云、雲凝大野、遍界不藏。

雪覆蘆花、難分朕迹。

冷處冷如氷雪、細處細如米末。

深深處佛眼難窺、密密處魔外莫測。

舉一明三即且止、坐斷天下人舌頭、作麼生道。

且道是什麼人分上事。試舉看。

 

垂示(すいじ)(いわ)く、(くも)大野(だいや)(あつま)れば、遍界(へんかい)(かく)れず。(ゆき)蘆花(ろか)(おお)えば、朕迹(ちんせき)(みわ)(がた)し。(つめ)たき(ところ)氷雪(ひょうせつ)よりも(つめ)たく、(こま)かき(ところ)米末(べいまつ)よりも(こまや)かなり。深深(しんじん)たる(ところ)仏眼(ぶつげん)(うかが)(がた)く、密密(みつみつ)たる(ところ)魔外(まげ)(はか)ること()し。挙一(こいち)明三(みょうさん)(すなわ)(しばら)()く、天下(てんか)(ひと)舌頭(ぜっとう)坐断(ざだん)して、作麼生(そもさん)()わん。(しばら)()え、()什麼人(いかなるひと)分上(もちまえ)()ぞ。(こころ)みに()()ん。

 

【本則】

舉僧問巴陵、如何是提婆宗。

巴陵云、銀椀裏盛雪。

 

()す。(そう)巴陵(はりょう)()う、「如何(いか)なるか()提婆宗(だいばしゅう)」。

巴陵(はりょう)(いわ)く、「銀椀裏(ぎんわんり)(ゆき)()る」。

 

【頌】

老新開端的別、解道銀椀裏盛雪。

九十六箇應自知、不知却問天邊月。

提婆宗、提婆宗、赤旛之下起清風。

 

(ろう)新開(しんかい)端的(たんてき)(べつ)なり、()くぞ()えり、銀椀裏(ぎんわんり)(ゆき)()ると。九十六箇(きゅうじゅうろくっこ)(まさ)自知(じち)すべし、(さと)らずんば(かえ)って天辺(てんぺん)(つき)()え。提婆宗(だいばしゅう)提婆宗(だいばしゅう)赤旛(しゃくばん)(もと)清風(せいふう)(おこ)す。


2020年10月22日木曜日

【総ルビ原文訓読】碧巌録 第19則

 

第一九則

「倶胝指頭禅」

 

【垂示】

垂示(すいじ)(いわ)く、一塵(いちじん)(あが)って大地(だいち)(おさ)まり、一花(いっか)(ひら)いて世界(せかい)(おこ)る。()(ちり)(いま)(あが)らず(はな)(いま)(ひら)かざる(とき)(ごと)きは、如何(いかに)(まなこ)()けん。所以(ゆえ)()う。「一綟絲(いちれいし)()るが(ごと)し、一斬(いちざん)すれば一切斬(いっさいざん)一綟絲(いちれいし)()むるが(ごと)し、一染(いっせん)すれば一切(いっさい)(せん)」と。()如今(いま)便(すなわ)葛藤(かっとう)截断(せつだん)して、自己(じこ)家珍(かちん)運出(うんしゅつ)せば、高低(こうてい)(あまね)(おう)じ、前後(ぜんご)(たが)うこと()く、各各(おのおの)現成(げんじょう)せん。儻或(もし)(いま)(しか)らずんば、下文(かぶん)看取()

 

【本則】

()す。俱胝(ぐてい)和尚(おしょう)(およ)所問(しょもん)あれば、()一指(いっし)()つ。

 

【頌】

対揚(たいよう)(ふか)(あい)(ろう)俱胝(ぐてい)宇宙(うちゅう)(くう)()たって(さら)(たれ)()る。(かつ)滄溟(うみ)浮木(ふぼく)(おろ)して、夜濤(やとう)(あい)(とも)盲亀(もうき)(せっ)す。