2014年5月22日木曜日

無門関 第一則 趙州狗子 [原文+訓読]




一 趙州狗子



趙州和尚、因僧問、狗子還有佛性也無。

趙州和尚、因(ちな)みに僧問う、「狗子、還(は)た仏性(ぶっしょう)有りや」。



州云、無。

州云く、「無」。



無門曰、參禪須透祖師關、

無門曰く、「参禅は須(すべから)く祖師の関を透(とお)るべし。



妙悟要窮心路絶。

妙悟は心路を窮めて絶せんことを要す。



祖關不透心路不絶、盡是依草附木精靈。

祖関透らず心路絶せずんば、尽(ことごと)く是れ依草附木(えそうふぼく)の精霊ならん。



且道、如何是祖師關。

且(しば)らく道(い)え、如何が是れ祖師の関。



只者一箇無字、乃宗門一關也。

只(た)だ者(こ)の一箇の無字、乃(すなわ)ち宗門の一関なり。



遂目之曰禪宗無門關。

遂に之れを目(なず)けて禅宗無門関と曰(い)う。



透得過者、非但親見趙州、便可與歴代祖師把手共行、眉毛厮結同一眼見、同一耳聞。

透得(とうとく)過(か)する者は、但(た)だ親しく趙州に見(まみ)えるのみに非(あら)ず、便(すなわ)ち歴代の祖師と手を把(と)って共に行き、眉毛(びもう)厮(あ)い結んで同一眼(どういつげん)に見、同一耳(どういつに)に聞く可(べ)し。



豈不慶快。

豈(あ)に慶快(けいかい)ならざらんや。



莫有要透關底麼。

透関を要する底(てい)有ること莫(な)しや。



將三百六十骨節、八萬四千毫竅、通身起箇疑團參箇無字。

三百六十の骨節、八萬四千の毫竅を将(も)って、通身に箇の疑団を起して箇の無の字に参ぜよ。



晝夜提撕、莫作虚無會、莫作有無會。

昼夜提撕(ていぜい)して、虚無(きょむ)の会(え)を作(な)すこと莫(なか)れ、有無(うむ)の会(え)を作(な)すこと莫(なか)れ。



如呑了箇熱鐵丸相似、吐又吐不出。

箇の熱鐵丸(ねつてつがん)を呑了(どんりょう)するが如くに相い似て、吐けども又た吐き出さず。



蕩盡從前惡知惡覚、久久純熟自然内外打成—片、如啞子得夢、只許自知。

従前の悪知悪覚を蕩尽(とうじん)して、久々に純熟して自然(じねん)に内外(ないげ)打成(だじょう)一片ならば、啞子(あし)の夢を得るが如く、只(た)だ自知することを許す。



驀然打發、驚天動地。

驀然(まくねん)として打発せば、天を驚かし地を動ぜん。



如奪得關將軍大刀入手、逢佛殺佛、逢祖殺祖、

関将軍の大刀を奪い得て手に入るるが如く、仏(ぶつ)に逢うては仏を殺し、祖に逢うては祖を殺し、



於生死岸頭得大自在、向六道四生中遊戲三昧。

生死(しょうじ)岸頭(がんとう)に於いて大自在を得、六道(ろくどう)四生(ししょう)の中に向かって遊戯(ゆげ)三昧(ざんまい)ならん。



且作麼生提撕。

且(しば)らく作麼生(そもさん)か提撕(ていぜい)せん。



盡平生氣力擧箇無字、

平生(へいぜい)の気力を尽くして箇の無の字を挙(こ)せよ。



若不間斷、好似法燭一點便著。

若(も)し間断(けんだん)せずんば、好(はなは)だ法燭の一点すれば便ち著(つ)くに似ん。



頌曰

頌(じゅ)に曰く



狗子佛性

狗子仏性



全提正令

全提(ぜんてい)正令(しょうれい)



纔渉有無

纔(わずか)に有無(うむ)に渉(わた)れば



喪身失命

喪身(そうしん)失命(しつみょう)せん。






出典:無門関 (岩波文庫)



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無門関 第一則 趙州狗子 [原文]




無門関 第一則 趙州狗子 [原文]



一 趙州狗子



趙州和尚、因僧問、狗子還有佛性也無。

州云、無。



無門曰、參禪須透祖師關、妙悟要窮心路絶。

祖關不透心路不絶、盡是依草附木精靈。

且道、如何是祖師關。

只者一箇無字、乃宗門一關也。

遂目之曰禪宗無門關。

透得過者、非但親見趙州、便可與歴代祖師把手共行、眉毛厮結同一眼見、同一耳聞。

豈不慶快。

莫有要透關底麼。

將三百六十骨節、八萬四千毫竅、通身起箇疑團參箇無字。

晝夜提撕、莫作虚無會、莫作有無會。

如呑了箇熱鐵丸相似、吐又吐不出。

蕩盡從前惡知惡覚、久久純熟自然内外打成—片、如啞子得夢、只許自知。

驀然打發、驚天動地。

如奪得關將軍大刀入手、逢佛殺佛、逢祖殺祖、於生死岸頭得大自在、向六道四生中遊戲三昧。

且作麼生提撕。

盡平生氣力擧箇無字、若不間斷、好似法燭一點便著。






頌曰



狗子佛性

全提正令

纔渉有無

喪身失命






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無門関 第一則 趙州狗子 [原文+訓読]




2014年5月21日水曜日

Mumon's Preface 無門慧開の自序 [無門関]


Buddhism makes mind its foundation and no-gate its gate.

仏語心為宗、無門為法門。

仏たちの説く清浄な心こそを要とし、入るべき門の無いのを法門とするのである。



Now, how do you pass through this no-gate?

既是無門、且作麽生透。

さて、入るべき門がないとすれば、そこをいかにして透過すべきであるか。



It is said that things coming in through the gate can never be your own treasures. What is gained from external circumstances will perish in the end.

豈不見道、従門入者不是家珍、従縁得者始終成壊。

「門を通って入ってきたようなものは家の宝とはいえないし、縁によって出来たものは始めと終わりがあって、成ったり壊れたりする」というではないか。



However, such a saying is already raising waves when there is no wind. It is cutting unblemished skin.

恁麼説話、大似無風起浪好肉剜瘡。

私がここに集めた仏祖の話にしても、風も無いのに波を起したり、綺麗な肌にわざわざ瘡を抉(えぐ)るようなもの。



As for those who try to understand through other people's words, they are striking at the moon with a stick; scratching a shoe, whereas it is the foot that itches. What concern have they with the truth?

何況滞言句覓解会。掉棒打月、隔靴爬痒、有甚交渉。

まして言葉尻に乗って何かを会得しようとするようなことなど、もってのほかであろう。棒を振り回して空の月を打とうとしたり、靴の上から痒みを掻くようなことで、どうして真実なるものと交わることができよう。



In the summer of the first year of Jotei, Ekai was in Ryusho Temple and as head monk worked with the monks, using the cases of the ancient masters as brickbats to batter the gate and lead them on according to their respective capacities.

慧開、紹定戊子夏、首衆于東嘉龍翔。因衲子請益、遂將古人公案作敲門瓦子、随機引導学者。

私は紹定元年(1228)の安居(あんご)を、東嘉の竜翔寺で過ごし、学人を指導する立場にあったが、学人たちがそれぞれ悟りの境地について個人的な指導を求めてきたので、思いついて古人の公案を示して法門を敲(たた)く瓦とし、それぞれ学人の力量に応じた指導をすることにしたのである。



The text was written down not according to any scheme, but just to make a collection of forty-eight cases. It is called Mumonkan, "The Gateless Gate."

竟爾抄録、不覚成集。初不以前後叙列、共成四十八則、通曰無門関。

それらの中のいくつかを選んで記録するうちに、思いがけなくも一つの纏(まと)まったものができあがった。もともと順序だてて並べたわけではないが、全体で四十八則になったので、これを『無門関』と名付けた。



A man of determination will unflinchingly push his way straight forward, regardless of all dangers.

若是箇漢、不顧危亡単刀直入。

もし本気で禅と取り組もうと決意した者ならば、身命を惜しむことなく、ずばりこの門に飛び込んでくることであろう。



Then even the eight-armed Nata cannot hinder him.

八臂哪吒、攔他不住。

その時は三面八臂の哪吒(なた)のような大力鬼王でさえ彼を遮(さえぎ)ることはできまい。



Even the four sevens of the West and the two threes of the East would beg for their lives.

縦使西天四七、東土二三、只得望風乞命。

インド二十八代の仏祖や中国六代の禅宗祖師でさえ、その勢いにかかっては命乞いをするばかりだ。



If one has no determination, then it will be like catching a glimpse of a horse galloping past the window: in the twinkling of an eye it will be gone.

設或躊躇、也似隔窓看馬騎、眨得眼来、早已蹉過。

しかし、もし少しでもこの門に入ることを躊躇するならば、まるで窓越しに走馬を見るように、瞬きのあいだに真実はすれ違い去ってしまうであろう。



頌曰

頌(うた)って言う



The Great Way is gateless,

大道無門

大道に入る門は無く、



Approached in a thousand ways.

千差有路

到るところが道なれば、



Once past this checkpoint

透得此関

無門の関を透過して、



You stride through the universe.

乾坤独歩

あとは天下の一人旅。






英語:Two Zen Classics: The Gateless Gate and The Blue Cliff Records
日本語:無門関 (岩波文庫)


2014年5月14日水曜日

分かりすぎて分からぬ




只為分明極 翻令所得遅

ただ分明(ぶんみょう)に極まれるがために 翻(かえ)って所得をして遅からしむ

あまりにはっきりしすぎたことで、かえって得るのに時間がかかる






出典:『無門関 (岩波文庫)




人は忙しい




人向静中忙

人は静中(じょうちゅう)に向かって忙(いそがわ)し






出典:大川普済語録

2014年5月11日日曜日

止水と流水




人莫鑑於流水 而鑑於止水

人は流水に鑑(かがみ)することなくして、止水に鑑す






出典:『荘子』徳充符篇




能あるゆえに苦しむ




以其能 苦其生

その能をもって その生を苦しむ



桂可食故伐之 漆可用故割之

桂(けい)は食らうべきがゆえに伐られ

漆(うるし)は用ふべきがゆえに割(さ)かる






出典:『荘子』人間世篇




文字に在らず 文字を離れず




不在文字 不離文字

文字に在らず 文字を離れず






出典:『碧巌録』三教老人序



2014年5月10日土曜日

馬追えぬ一言




一言既出駟馬難追

一言(いちごん)すでに出づれば、駟馬(しめ)も追い難し






出典:『虚堂智愚和尚語録』




誤り背く口舌




開口即錯 動舌即乖

口を開けば即ち錯(あやま)り

舌を動(どう)ずれば即ち乖(そむ)く






出典:『大灯国師語録』

人馬なし




鞍上無人 鞍下無馬

鞍上(あんじょう)人なく 鞍下(あんか)馬なし







翻覆、雲雨




翻手作雲覆手雨

手を翻(ひるがえ)せば雲となり

手を覆(くつがえ)せば雨となる



杜甫




ものいへば唇さむし秋のかぜ




ものいへば

唇さむし

秋のかぜ



芭蕉

咲かぬ先に香る




梅花未動意先香

梅花 未だ動かざるも 意まず香(かんば)し



出典:陸游「初冬」




カエル、仏心を抱く




青蛙抱仏心

青蛙(せいあ)仏心を抱き

踏上蓮花坐

踏んで蓮花(れんげ)に上(のぼ)って坐す






出典:袁枚「雨中即時」

『碧巌録』方回序




本来無一物(慧能)

ほんらいむいちもつ



時時勤払拭(神秀)

時時に勤めて払拭(ほっしき)せよ



呵仏罵祖

仏を呵(しか)り祖を罵(ののし)る



第一義焉用言句

第一義は焉(いずく)んぞ言句(ごんく)を用いん






出典:『碧巌録(上)』方回序



2014年5月9日金曜日

形したがい、心和する [荘子]




形莫若就 心莫若和

形は就(つ)くに若(し)くはなく、心は和するに若くはなし

形のうえでは相手に従うのが一番、心も相手に調子を合わせるのが第一。



雖然 就不欲入 和不欲出

然り雖(いえど)も、就(つ)くも入るを欲せず、和するも出(い)づるを欲せざれ

そうはいっても、相手に従っても相手とまったく同じになってはいけないし、相手に調子を合わせても相手に認められるほどになってはいけない。






出典:『荘子 第1冊 内篇』人間世篇

『碧巌録』普照序




烹仏煆祖鉗鎚

烹仏煆祖(ほうぶつかそ)の鉗鎚(けんつい)



蚊咬鉄牛

蚊の鉄牛を咬(か)む



趙璧本無瑕類

趙璧(ちょうへき)は本(も)と瑕類(きず)無し



泥句沈言

句に泥(なず)み言に沈む






出典:『碧巌録〈上〉 (岩波文庫)』普照序