2017年4月27日木曜日
碧巖録 1.武帝問達磨[English]
碧巌録
へきがんろく
The Blue Cliff Records
第一則
武帝問達磨
武帝、達磨に問う
Case 1
Emperor Wu Asks Bodhidharma
【垂示】
Engo's Introduction
垂示云、
隔山見煙、早知是火、
隔牆見角、便知是牛。
垂示(すいじ)※に云く、山を隔てて煙を見て、早(つと)に是れ火なることを知り、牆(かき)を隔てて角(つの)を見て、便(すなわ)ち是れ牛なることを知る。
Smoke over the hill indicates fire, horns over the fence indicate an ox.
※垂示…本則を提示する小序
挙一明三、目機銖両、
是衲僧家尋常茶飯。
挙一明三(こいちみょうさん)※、目機銖両(もっきしゅりょう)※は、是れ衲僧家(のうそうけ)※の尋常茶飯(さはん)。
Given one corner, you grasp the other three; one glance, and you discern the smallest difference. Such quickness, however, is only too common among robed monks.
※挙一明三…一を挙げれば直ちに三を了解する。明敏の喩え。
※目機銖両…「目機」は目で重さを量る。「銖・両」は小さな重量単位。一目で何たるかを見抜く。
※衲僧…禅僧
至於截断衆流、
東涌西没、逆順縦横、与奪自在。
衆流(しゅりゅう)を截断(せつだん)するに至っては、東涌西没(とうゆさいもつ)、逆順縦横、与奪自在なり。
When you have stopped the deluded activity of consciousness, then, whatever situation you may find yourself in, you enjoy perfect freedom, in adversity and prosperity, in taking and giving.
※截断…あらゆる知見を截ち切る。
※東涌西没…東に西に出没自在。
正当恁麼時、且道、是什麼人行履処。
正当(しょうとう)恁麼(いんも)の時※、且(しばらく)道(い)え※、是れ什麼(いかなる)人の行履(あんり)の処ぞ。
Now tell me, how in fact will this sort of person behave?
※正当恁麼時…ちょうどこのような時。「恁麼」は文語の「如此」に当る。
※且道…発問の語句の前におかれる常套語。さて、さあ、と相手に答えを促す気分。
※什麼…「何」に同じ。「甚」「甚麼」とも。
看取雪竇葛藤。
雪竇(せっちょう)の葛藤を看取(み)※よ。
See Setcho's complications.
※看取…「取」は能動的な語気の接尾辞。
※葛藤…からみまといつくものの喩え。禅では言語表現、または言語そのものの意に用いる。
【本則】
Main Subject
挙。
梁武帝、問達磨大師、
如何是聖諦第一義。
挙(こ)す。梁(りょう)の武帝(ぶてい)※、達磨(だるま)大師に問う、「如何なるか是れ聖諦(しょうたい)※第一義」。
Emperor Wu of Lang asked Bodhidharma, "What is the first principle of the holy teachings?"
※梁武帝…梁の初代皇帝、蕭衍(しょうえん)464-549
※聖諦…仏法の根本義。
磨云、
廓然無聖。
磨云く、「廓然無聖(かくねんむしょう)※」。
Bodhidharma said, "Emptiness, no holiness."
※廓然無聖…からりとした虚空のように「聖」も何も無い。「聖」性をも払い去った開豁な世界。
帝曰、対朕者誰。
磨曰、不識。
帝曰く、「朕(ちん)に対する者は誰(た)ぞ」。磨云く、「織(し)らず」。
"Who is this standing before me?" "No knowing."
帝不契。
達磨遂渡江至魏。
帝契(かな)わず。達磨遂に江を渡って魏に至る。
The emperor did not grasp his meaning. Thereupon Bodhidharma crossed the river and went to the land of Wei.
帝後挙問志公。
志公云、陛下還織此人否。
帝云、不識。
志公云、此是観音大士、伝仏心印。
帝、後(のち)に挙(こ)して志公(しこう)※に問う。志公云く、「陛下還(は)た※此の人を識る否(や)」。帝云く、「織らず」。志公云く、「此れは是れ観音大士(かんのんだいし)※、仏心印(ぶっしんいん)※を伝う」。
The emperor later spoke of this to Shiko, who said, "Do you in fact know who this person is?" The emperor said, "No knowing." Shinko said, "This is the Bodhisattva Kannon, the bearer of the Buddha's Heart Seal."
※志公…宝誌(418または425〜514)。神異と奇行の僧として知られた。
※還…「還(は)〜否(や)」で、いったい〜か、という疑問を表す構文。「還〜也無(也未)」とも。
※観音大士…このころ『観音経』にもとづいて、観音さまがさまざまに姿を変えて人々を導くという信仰があった。
※仏心印…仏法の根本精神。悟りの核心。仏の悟りを印に喩えた語で、「仏印」「心印」とも。
帝悔、遂遣使去請。
志公云、莫道陛下発使去取、闔国人去、 佗亦不回。
帝悔いて、遂に使いを遣わし去(ゆ)きて請(しょう)ぜんとす。志公云く、「陛下、使いを発し去(ゆ)きて取(むか)えしめんとするは莫道(もとより)※、闔国 (こうこく)※の人去(ゆ)くも、佗(かれ)は亦た回(かえ)らず」。
The emperor was full of regret and wanted to send for Bodhidharma, but Shinko said, "It is no good sending a messenger to fetch him back. Even if all the people went, he would not turn back."
※莫道…「莫道a、b」、aは言うまでもなく、bも。
※闔国…国じゅうすべて。
【頌】
Setcho's Verse
聖諦廓然、何当辨的
聖諦(しょうたい)廓然(かくねん)、何当(いつのひ)※にか的(てき)を辨ぜん※。
The holy teaching? "Emptiness!" What is the secret here?
※何当…いつの日に。また「いつかは〜したいものだ」という願望を表すこともある。
※辨…仏法の核心をわきまえる。
対朕者誰、還云不識。
「朕に対する者は誰ぞ」、還(ま)た云う、「識らず」と。
Again, "Who stands before me?" "No knowing!"
因茲暗渡江、豈免生荊棘。
茲(これ)に因り暗(ひそか)に江を渡る、豈に荊棘(いばら)※を生ずることを免れんや。
Inevitable, the thorns and briars springing up;
Secretly, by night, he crossed the river.
※荊棘…「生荊棘」は戦争などで国土が荒廃すること。
闔国人追不再来、千古万古空相憶。
闔国の人追うも再来せず、千古万古※空しく相憶う。
All the people could not bring him back. Now, so many years gone by, Still Bodhidharma fills your mind --in vain.
※千古万古…千年万年、永久に。
休相憶、清風匝地有何極。
相憶うことを休めよ、清風※地に匝(あまね)く何の極(きわ)まることか有る。
Stop thinking of him! A gentle breeze pervades the universe.
※清風…やむことなく涼風は大地を吹きわたっているものを。
師顧視左右云、這裏還有祖師麼。
自云、有。喚来与老僧洗脚。
師左右を顧視(みまわ)して云く、「這裏(ここ)に還(は)た祖師有りや」。自ら(答えて)云く、「有り。喚び来たりて老僧(われ)の与(ため)に脚を洗わしめん」。
The master looks around: "Is the patriarch there? --Yes! Bring him to me, And he can wash my feet."
出典:
碧巌録〈上〉 (岩波文庫)
Two Zen Classics: The Gateless Gate and The Blue Cliff Records
ラベル:
English,
The Blue Cliff Records,
碧巌録
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