2019年11月28日木曜日

【原文ルビ訓読】禅林句集『和訓略解』八言対 001-027





八言対
P471 (240)

1[僧21
剣輪飛処 日月沈輝、
宝杖敵時 乾坤失色。

剣輪飛ぶ処 日月輝を沈め、
宝杖敵する時 乾坤色を失す。

剣輪(けんりん)()(ところ) 日月(じつげつ)(ひかり)(しず)め、
宝杖(ほうじょう)(てき)する(とき) 乾坤(けんこん)(いろ)(しっ)す。

【解】「剣」と「宝杖」は本分を指す、本心が現るると、日月も天地も消えて了ふ。

2[普2
炉韛之所 鈍鉄猶多、
良医之門 病者愈甚。

炉韛の所 鈍鉄猶多く、
良医の門に病者愈甚し。

(ろはい)(ところ) 鈍鉄(どんてつ)(なお)(おお)く、
良医(りょうい)(もん)病者(びょうしゃ)(いよいよ)(はなはだ)し。

【解】師家の室内にはヤクザ者が多く、良医の門には病人が益々多い。真の衲僧の少なきをいふ。

3[圜悟3
孤峯頂上 目視雲霄、
古渡頭辺 和泥合水。

孤峯頂上 目に雲霄を視、
古渡頭辺 和泥合水。

孤峯(こほう)頂上(ちょうじょう) ()雲霄(うんしょう)()
古渡(こと)頭辺(とうへん) 和泥(わでい)合水(ごうすい)

【解】「孤峯頂上」は本分の家山。「雲霄」は天、「古渡頭辺」は世間、「和泥合水」は凡夫と交はること。

4
冬至月頭、売被買牛、
冬至月尾、売牛買被。

冬至月頭にある時は、被を売って牛を買い、
冬至月尾にある時は、牛を売って被を買ふ。

冬至(とうじ)月頭(げっとう)にある(とき)は、()()って(うし)()い、
冬至(とうじ)月尾(げつび)にある(とき)は、(うし)()って()()ふ。

【解】「月頭」は悟前、「月尾」は悟後、「被」は衣服にて我身、「牛」は本分に喩ふ。

P472 (241)

5[普3
説妙談玄 太平姦賊、
行棒下喝 乱世英雄。

妙を説き玄を談ずる 太平の姦賊、
棒を行じ喝を下す 乱世の英雄。

(みょう)()(げん)(だん)ずる 太平(たいへい)姦賊(かんぞく)
(ぼう)(ぎょう)(かつ)(くだ)す 乱世(らんせ)英雄(えいゆう)

【解】向上より云へば、言語を弄するは姦賊だが、向下より云へば、棒喝を下すは人を救う英雄ぢゃ。

6[虚堂1
天寒人寒 針頭削鉄、
滴水滴凍 画餅充飢。

天寒人寒 針頭に鉄を削り、
滴水滴凍 画餅 飢に充つ。

天寒(てんかん)人寒(じんかん) 針頭(しんとう)(てつ)(けず)り、
滴水(てきすい)滴凍(てきとう) 画餅(がびょう) (うえ)()つ。

【解】胸中に何物も無ければ「針頭」の削り様のなきが如く、他より何物も加へられない。

7[虚堂7
追大鵬 於藕糸竅中、
納須弥 於蟭螟眼裏。

大鵬を藕糸竅中に追ひ、
須弥を蟭螟眼裏に納る。

大鵬(たいほう)藕糸(ぐうし)竅中(きょうちゅう)()ひ、
須弥(しゅみ)蟭螟(しょうめい)眼裏(がんり)()る。

【解】「藕糸」は蓮糸なり、「蟭螟眼」は蚊の眉中に巣ふ小虫、大小泯滅の見。

8[普2
撹酥酪醍醐 為一味、
鎔缾盤釵釧 為一金。

酥酪醍醐を撹いて一味と為し、
缾盤釵釧を鎔して一金と為す。

酥酪(そらく)醍醐(だいご)()いて一()()し、
缾盤(びょうばん)釵釧(しゃしん)()して一(きん)()す。

【解】「酥酪醍醐」は結構な御馳走、「缾盤釵釧」は立派な品、身心脱落して天地一枚となること。

9[普灯3
姑蘇台畔 不語春秋、
衲僧面前 豈論玄妙。

姑蘇台畔 春秋を語らず、
衲僧面前 豈に玄妙を論ぜんや。

姑蘇(こそ)台畔(だいはん) 春秋(しゅんじゅう)(かた)らず、
衲僧(のうそう)面前(めんぜん) ()玄妙(げんみょう)(ろん)ぜんや。

【解】「姑蘇台」は城の物見台。衲僧分上には善悪美醜の沙汰はない。

P473 (241)

10[大慧7
削亀毛 於鉄牛背上、
截兎角 於石女腰辺。

亀毛を鉄牛背上に削り、
兎角を石女腰辺に截る。

亀毛(きもう)鉄牛(てつぎゅう)背上(はいじょう)(けず)り、
兎角(とかく)石女(せきじょ)腰辺(ようへん)()る。

【解】「鉄牛」「石女」は法身に喩ふ。「亀毛」「兎角」は無きもの。空身を更に空ずるをいふ。

11
若也会得 入郷従俗、
若也不会 餓死首陽。

若し也た会得せば 郷に入って俗に従ふ、
若し也た会せずんば 首陽に餓死せん。

()()会得(えとく)せば (きょう)()って(ぞく)(したが)ふ、
()()()せずんば 首陽(しゅよう)餓死(がし)せん。

【解】真に会した人は本分に腰を据えず、真に会せずば徒らに空見に滞る。「首陽餓死」は伯夷叔斉の故事。

12[普5
富與貴 是人之所欲、
貧與賤 是人之所悪。

富と貴とは是れ人の欲する所、
貧と賤とは是れ人の悪む所なり。

()()とは()(ひと)(ほっ)する(ところ)
(ひん)(せん)とは()(ひと)(にく)(ところ)なり。

【解】富貴にはなりたし、貧乏は誰もイヤ。

13
欲能其詩 先能其心、
欲能其画 先能其容。

其詩を能せんと欲せば 先づ其心を能くし、
其画を能せんと欲せば 先づ其容を能くせよ。

其詩(そのし)(よく)せんと(ほっ)せば ()其心(そのこころ)()くし、
其画(そのが)(よく)せんと(ほっ)せば ()其容(そのよう)()くせよ。

【解】心が狂って居ると良い詩は出来ぬ、形が正しくないと其画は狂って出来る。

14
恐痛者 須是知痛人、
怖毒者 須是知毒人。

痛を恐るる者は須く是れ痛を知る人なるべし、
毒を怖るる者は須く是れ毒を知る人なるべし。

痛を恐るる者は須く是れ痛を知る人なるべし、
毒を怖るる者は須く是れ毒を知る人なるべし。

【解】盲目は蛇に怖ぢず。知る人は怖る。

P474 (242)

15
四大海水 可知滴数、
諸須弥山 可知斤両。

四大海水は滴数を知るべく、
諸須弥山も斤両を知るべし。

四大(しだい)海水(かいすい)滴数(てきすう)()るべく、
(しょ)須弥山(しゅみせん)斤両(きんりょう)()るべし。

【解】大海の水量や、須弥山の目方は量れば分らうが、吾心だけは知れない。

16[虚7
漁歌烟浦 咸称富貴、
樵唱雲樹 共楽昇平。

漁は烟浦に歌うて咸 富貴と称し、
樵は雲樹に唱へて共に昇平を楽む。

(ぎょ)烟浦(えんぽ)(うた)うて(みな) 富貴(ふうき)(しょう)し、
(しょう)雲樹(うんじゅ)(とな)へて(とも)昇平(しょうへい)(たのし)む。

【解】山辺も海辺も。天下泰平の様子をいふ。

17[普灯17
孤峯頂上 嘯月眠雲、
大洋海中 翻波走浪。

孤峯頂上に 月に嘯き雲に眠る、
大洋海中 波を翻し浪に走らす。

孤峯(こほう)頂上(ちょうじょう)に (つき)(うそぶ)(くも)(ねむ)る、
大洋(たいよう)海中(かいちゅう) (なみ)(ひるがえ)(なみ)(はし)らす。

【解】上句は自己の真の境地、下句は衆生済度に奔走するをいふ。

18[大慧9
高々峯頂 立不露頂、
深々海底 行不湿脚。

高々たる峯頂に立って 頂を露さず、
深々たる海底に行て 脚を湿さず。

高々(こうこう)たる峯頂(ほうちょう)()って (いただき)(あらわ)さず、
深々(しんしん)たる海底(かいてい)(ゆい)て (あし)湿(うるお)さず。

【解】向上の一位に留らず、向下に下っても俗塵に染汚せられず。

19
即心即仏 如兎有角、
非心非仏 如羊無角。

即心即仏 兎の角有するが如く、
非心非仏 羊の角無きが如し。

即心(そくしん)即仏(そくぶつ) ()(かく)(ゆう)するが(ごと)く、
非心(ひしん)非仏(ひぶつ) (よう)(かく)()きが(ごと)し。

【解】即心即仏、非心非仏は、馬祖道一禅師の語、有無畢竟一味平等なるをいふ。

P475 (242)

20
天與不取 反受其咎、
時至不行 反受其殃。

天の與ふるを取らざれば 反て其咎を受く、
時至って行はざれば 反て其殃を受く。

(てん)(あた)ふるを()らざれば (かえっ)其咎(そのとが)()く、
(とき)(いた)って(おこな)はざれば (かえっ)其殃(そのわざわい)()く。

【解】尾生の信の如き、宋襄の仁の如きをいふ。

21
白雲堆裏 不見白雲、
流水声裏 不聞流水。

白雲堆裏に 白雲を見ず、
流水声裏に 流水を聞かず。

白雲(はくうん)堆裏(たいり)に 白雲(はくうん)()ず、
流水(りゅうすい)声裏(せいり)に 流水(りゅうすい)()かず。

【解】雲の中、水の中に居ては、雲も水も見えぬ。妄想の中に在っては妄想は解らぬ。

22[人天眼目]
一双孤雁、撲地高飛、
一対鴛鴦、池辺独立。

一双の孤雁、地を撲って高く飛び、
一対の鴛鴦、池辺に独立す。

一双(いっそう)孤雁(こがん)()()って(たか)()び、
一対(いっつい)鴛鴦(えんのう)池辺(ちへん)独立(どくりつ)す。

【解】見たままの天地の景況をいふ。

23[虚2
霧豹沢毛 未曾下食、
庭禽養勇 終待驚人。

霧豹毛を沢ほして 未だ曾て食に下らず、
庭禽勇を養って 終に人を驚かさん事を待つ。

霧豹(むひょう)()(たく)ほして (いま)(かつ)(しょく)(くだ)らず、
庭禽(ていきん)(けづめ)(やしな)って (つい)(ひと)(おどろ)かさん(こと)()つ。

【解】ニ句共に修行の進むこと。「霧豹」は霧中にある豹。「勇」はケヅメなり。

24
堯風蕩々 野老謳歌、
舜日熙々 漁人鼓棹。

堯風蕩々として野老謳歌し、
舜日熙々として漁人棹を鼓す。

(ぎょう)(ふう)蕩々(とうとう)として野老(やろう)謳歌(おうか)し、
(しゅん)(じつ)熙々(きき)として漁人(ぎょじん)(さお)()す。

【解】天下泰平の様ふ。「蕩々」はヒロキ形。「熙々」は照り輝くこと。

P476 (243)

25
腰間佩 文殊逼伏剣、
手中握 龍猛金膏筆。

腰間に文殊逼伏の剣を佩び、
手中に龍猛金膏の筆を握る。

腰間(ようかん)文殊(もんじゅ)逼伏(ひつぶつ)(けん)()び、
手中(しゅちゅう)龍猛(りゅうもう)金膏(きんごう)(ふで)(にぎ)る。

【解】衲僧自由の活作略をなすをいふ。

26[碧16
雲門云 我当時若見、
一棒打殺 与狗子喫。

雲門云く 我当時若し見ば、
一棒に打殺して狗子に与へて喫せしめん。

雲門(うんもん)(いわ)く (われ)当時(そのかみ)()()ば、
(ぼう)打殺(ださつ)して狗子(くし)(あた)へて(きっ)せしめん。

【解】碧巌録第十六則公案を、雲門が評したる語なり。語抑下の意托上なり。

27
寒山拾得 及第不得、
碧眼黄頭 遂是難得。

寒山拾得 及第することを得ず、
碧眼黄頭 遂に是れ得難し。

寒山(かんざん)拾得(じっとく) 及第(きゅうだい)することを()ず、
碧眼(へきがん)黄頭(こうとう) (つい)()得難(えがた)し。

【解】「及第」は成仏の意、「黄頭」は釈迦、「碧眼」は達磨。仏と成り難きをいふ。





→ 【原文ルビ訓読】禅林句集『和訓略解』八言対 外句増続 001-009

0 件のコメント:

コメントを投稿