2016年4月30日土曜日

「急げど水は 流れじ月は」 [柳宗悦]



急ゲド 水ハ

流レジ 月ハ

柳宗悦『心偈』39則


激しく水が流れている。皓々(こうこう)として月が水面に映っている。だが、水は急いで流れはするが、月はその急流の中に、美しくその姿を止めている。

昔、禅の坊さんたちは、こういう場面を見て、はたと思い当るものがあって、よく詩偈(しげ)を作った。激流はこの世にまつわる葛藤の姿と見てもよい。諸行無常で、一時も同じ姿には止らぬ。その流れに姿を映しながら、少しも流されない月こそは、無碍(むげ)の心そのものの姿ではないか。

世に交わって、交わらないもの、有に棹(さお)さして、有に沈まないもの、「碍(さわ)りなき」その姿こそ、この月の面影ではないか。その月に、解脱の姿を見つめるのである。



引用:南無阿弥陀仏―付・心偈 (岩波文庫)



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