2019年10月7日月曜日

【総ルビ訓読】『枯崖和尚漫録』序

国訳枯崖和尚


国訳(こくやく)()枯崖(こがい)和尚(おしょう)漫禄(まんろく)()

(じょ)

石谿(しっけい)偃谿(えんけい)人物(じんぶつ)(あい)し、風教(ふうきょう)(たっと)ぶこと、端嘉(たんか)諸老(しょろう)(まさ)れり。(ぼねん)霊径(りんきん)にて、()(もっと)親密(しんみつ)なり、述作(じゅっさく)評商(ひょうしょう)するに、一語(いちご)()むことなし。
(かつ)枯崖(こがい)仲簡(ちゅうかん)二老(にろう)()ふ。()(のち)(とも)()径山(きんざん)(つかさど)る、(かん)(ぶん)()むも、()しいかな早世(そうせい)せり。(しか)して枯崖(こがい)清苦(せいく)憤発(ふんぱつ)して、正宗(しょうじゅう)()くことあり。
()喝石巌(かつせきがん)(きょ)せし(とき)夾路(きょうろ)玉簪花(ぎょくさんか)(ひと)たび(ひら)いて、秋風(しゅうふう)騒然(そうぜん)たり。或人(あるひと)(わら)って(いわ)く、(ぜん)和子(なす)(わず)かに此花(このはな)()れば、(すなわ)(かん)(ふせ)ぐに(はかりごと)なきを(うれ)ひて、東馳(とうち)西鶩(せいぼく)す、(ひと)枯崖(こがい)破窓(はそう)()して、怡然(いぜん)たり。(つね)()(たずさ)へて、巌上(がんじょう)同宿(どうしゅく)す、(つき)(ひややか)なれば(かく)(のぼ)り、(ゆき)()るれば(やま)()て、(あい)(とも)胸中(きょうちゅう)耿々(こうこう)たり。()錦谿(きんけい)報慈(ほうじ)()でて、延平(えんぺい)含清(がんせい)(かえ)り、数年(すうねん)稍々(やや)(わか)る。
(このご)()く、枯崖(こがい)(いにしえ)(あつ)めて(ろく)()すと、偃谿(えんけい)(その)()(ところ)機縁(きえん)(みな)控人(こうじん)入処(にっしょ)あるを(よみ)し、後村(こうそん)(いず)れの(とき)(めい)()重論(じゅうろん)()んと()ひ、竹谿(ちくけい)他時(たじ)(とも)僧宝伝(そうほうでん)()らんと()ふ。枯崖(こがい)(みなみ)(かえ)って、(ろく)(たずさ)へて(あい)()ふ、適々(たまたま)()光孝(こうこう)(うつ)らんとし、卒爾(そつじ)過目(かもく)して(わか)る。
(いま)枯崖(こがい)泉南(せんなん)興福(こうふく)瑞世(ずいせい)す、(しか)して起蔵主(きぞうす)()めに()(かん)せんとして、(じょ)(ほっ)す。()参方(さんぽう)正眼(しょうげん)為人(いじん)峻機(しゅんき)逸致(いつち)高標(こうひょう)にして、(たん)(げき)()()つるは、(つぶ)さに(これ)()ゆ。()って(おも)ふ、石谿(しっけい)太白(たいはく)閑居(かんきょ)せしとき、仲宣(ちゅうせん)()非庵(ひあん)(こう)艮巌(こんがん)(きん)勝叟(しょうそう)(じょう)諸人(しょにん)旧作(きゅうさく)(こく)せんと(おも)ふ。(こう)(ささ)げて住山(じゅうざん)するに(およ)び、酬応(しゅうおう)不韻(ふいん)にして(また)(はた)さず。
枯崖(こがい)(まさ)(その)()捜抉(そうけつ)して()()いで彙集(いしゅう)し、五燈(ごとう)(のち)()一燈(いっとう)光明(こうみょう)天下(てんか)(てら)すを()せしめば、(あに)漫録(まんろく)()はんや。
枯崖(こがい)()()(ふく)福清(ふくせい)(ひと)
咸淳(かんじゅん)八年(はちねん)仲春(ちゅうしゅん)北山(ほくさん)紹隆(しょうりゅう)鼓山(くさん)(ろう)禅庵(ぜんなん)(しょ)す。



(じょ)

(むか)偃谿(えんけい)仏智(ぶっち)禅師(ぜんじ)霊隠(りんにん)(じゅう)し、()臨安(りんあん)(かく)たり、(あい)(とも)往来(おうらい)す、神交(しんこう)道契(どうけい)一日(いちじつ)(あら)ざるなり。枯崖(こがい)()()ること(ひさ)し、(いま)(かつ)眉毛(びもう)(あい)(むす)ばざるなり。
偶々(たまたま)(せん)(ぐう)す、()って興福寺(こうふくじ)()ぎて一見(いっけん)す。()()屋裡(おくり)(ひと)恬淡(てんたん)寡言(かげん)(しん)偃谿(えんけい)印子(いんす)(だっ)(きた)る。(このごろ)()く、枯崖(こがい)癸亥(きがい)(とし)径山(きんざん)蒙堂(もうどう)()して、平昔(へいせき)聞見(もんけん)する(ところ)宗宿(しゅうしゅく)入道(にゅうどう)機縁(きえん)示衆(じしゅう)法語(ほうご)(およ)残篇(ざんぺん)短碣(たんかつ)名字(みょうじ)(いま)(とう)(のぼ)らざるものを裒集(ほうしゅう)し、(したが)って(ひっ)する(ところ)(なづ)けて漫録(まんろく)()ふと。(その)(こころざし)()()り、偃谿(えんけい)呈示(ていじ)す、(しっ)して無事(ぶじ)閤裡(こうり)撆下(へっか)せらる。
是歳(このとし)夏五(かご)(たちま)()って(いわ)く、「(まさ)(おも)へり、()ぶるところの(もの)紀談(きだん)雑録(ざつろく)(なら)ふて談柄(だんぺい)()するのみと。(いま)(これ)(けみ)すれば、(すなわ)()れに(こと)なり、(おさ)むる(ところ)機語(きご)(みな)控人(こうじん)入処(にっしょ)あり」と。
(すで)(ふで)(もち)ひて、点下(てんか)し、()(すなわ)(さんきゃく)す。()(ぞく)すらく、(よろ)しく(これ)珍蔵(ちんぞう)すべしと、()()(ろく)()んと(ほっ)すと(いえど)も、(しか)(いま)(たた)くに(いとま)あらず。(たちま)起座元(きそげん)(げんこう)(たずさ)へて(われ)()ぐるを()()めに()(しん)せんと(ほっ)し、信庵(しんなん)一転語(いってんご)()ふ。
()詳復(しょうふく)すること数四(すうし)枯崖(こがい)は、(これ)()(ところ)()(ところ)()ると(いえど)も、(しか)編集(へんしゅう)して(でん)()すや、(あるい)(さん)し、(あるい)(ねん)し、(あるい)着語(ぢゃくご)し、(あるい)(じつ)()し、一々(いちいち)胸襟(きょうきん)より流出(るしゅつ)す、(あに)()依本(えほん)胡蘆(ころ)ならんや。(すなわ)()る、枯崖(こがい)和尚(おしょう)(あつ)むる(ところ)(もの)は、(みな)(うんとく)美玉(びぎょく)(はっ)して鼠璞(そぼく)にあらず、仏智(ぶっち)禅師(ぜんじ)(てん)する(ところ)のものは、(みな)走盤(そうばん)遺珠(いしゅ)(えら)んで魚目(ぎょもく)にあらざるを。
()(さら)
贅語(ぜいご)せば、(おそ)らくは(かえ)って(ぎょく)()(しょう)じて、(たま)(るい)()さん。起兄(きひん)(これ)()うことを(つと)む。()むを()ずして(ふたた)一足(いっそく)()れ、()画蛇(かくだ)(たす)く。(ああ)漫録(まんろく)一出(いっしゅつ)(なん)揚雄(ようゆう)(げん)(そう)して、(そし)りを(ひと)()るに(こと)ならんや。(しか)りと(いえど)も、後世(こうせい)(かなら)ず、子雲(しうん)なるものあって()でん。
咸淳(かんじゅん)壬申(じんしん)(なつ)(せいしょう)信庵(しんなん)陳叔震(ちんしゅくしん)(じょ)す。





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